電気ケトルで即沸騰する仕組みと熱力学的に見る沸騰(給湯)速度の限界

電気ケトルで即沸騰する仕組みと熱力学的に見る沸騰(給湯)速度の限界

あっという間にお湯が沸く現代の便利アイテム、電気ケトル。

安いものから高いものまで色々な商品がありますが、メーカー各社により湯沸かし速度に差はあるのでしょうか?

結論から申し上げると、沸騰までにかかる時間についてメーカー間による差はありません

なぜかというと、沸騰するまでの時間は家庭用コンセントの出力(W)によって制限されているからです。

本記事では、あっという間にお湯が沸く電気ケトルの仕組みと沸騰までの所要時間、さらには熱力学的に見た沸騰所要時間の限界について、誰にでもわかるように説明します。

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電気ケトルの仕組み

電気ケトルの仕組みは、ステンレスの容器の底に電熱線がまかれているという単純なものです。

スイッチをONにすると電気が通ることで電熱線が発熱し、発生した熱がステンレス製の容器を介して容器内の水に伝わります。

電気ケトルは一般的に温度計とマイコン(小さなコンピュータチップ)が設置されており、測定温度が設定温度(100度とか)を超えるとマイコンがスイッチを切るという制御を行います。

電気ケトル本体が熱くなりすぎないようにするために、内部の金属容器と外側の構造物との間には断熱層(空気or真空)があります。

これにより、沸騰後に本体を触ってもやけどをすることはありません。

電気ケトルは安価で購入でき構造も単純ですが、実は色々な工夫が随所に見られます。

電気ケトルの出力

それでは、電気ケトルは一般的にどのぐらいの電力を消費しているのでしょうか?

私の手元にある象印のケトルだと、1300Wとなっております。

一般的には大体こんなものでしょう。

一般家庭用電気の電圧は100Vなので、1300Wだと13Aの電流が流れることになります。

各家庭にはブレーカーが設置されており、設定アンペア数を超えるとブレーカーが落ちるように設定されています。

電力会社との契約により設定アンペア数は決まりますが、大体30A~50Aぐらいですね。

つまり、電気ケトルの出力は、使用時でもブレーカー容量の半分以下の電力使用量となるように設定されていると考えてよさそうです。

逆に言うと、これぐらいが日本の家庭の電気事情的な出力の制約となるということですね。

電気ケトルの熱負荷と限界熱流束の関係

さて、それでは科学ブログらしく、電気ケトルを科学的に深掘りしていきましょう!

前節にて、電気ケトルの出力が1300W程度であることがわかりました。

出力W(ワット)は電力量の単位ですが、これは熱量の単位でもあります。

つまり、「1300Wの電力量」=「1300Wの発熱量」と捉えられます。

電熱線により電気エネルギーが熱エネルギーに変換されているのですね。

電気ケトルの熱負荷(熱流束)の算出

それでは、電気ケトルにかかる熱負荷を求めていきましょう。

ケトル内部容器の底の直径を10cmと仮定します。

仮に、容器の底のみに熱が加わると仮定すると、熱出力を表面積で割った値である熱流束(単位はW/m2)は以下のようになります。

熱流束[W/m2]=熱出力[W]/伝熱表面積[m2]

=1300/(π×0.1^2/4)

=165521[W/m2]

=165.5[kW/m2]

ケトルの容器の底に与えられる熱負荷は165.5[kW/m2]であることがわかりました。

限界熱流束

電気ケトルの熱流束は165.5[kW/m2]であることがわかりましたが、この熱負荷は危なくないのでしょうか?

そのことを確認するための指標として、限界熱流束というものがあります。

限界熱流束というのは、その名が示す通り、与えられる最大の熱流束(熱負荷)を表します。

例えば電気ケトルの場合、熱負荷を上げていくとケトル内の水は沸騰しますが、更に熱負荷(出力)をあげていくと、伝熱面(底面)が大量の発生蒸気で覆われてしまいます。

そうなると、伝熱面を冷やすための水が供給されなくなり、ケトルの底面の温度が急上昇します(1000度とかあがります)。

この現象のことをバーンアウトと言います。バーンアウトが起こると、大抵の金属は融点を超えてとけてしまいます。

そして、このバーンアウトが起こるギリギリの熱流束(熱負荷)のことを、限界熱流束というのです!

それでは、ケトルの容器底部の限界熱流束はどの程度でしょうか?

出典:Wikipedia

上図は、Wikipediaにある沸騰曲線という図であり、横軸が加熱面と水の沸点(100度)との温度差、縦軸は熱流束を表します。

この図において、D点の値が限界熱流束となります。

対数グラフとなっているので、D点の値は1.5~2.0[MW/m2]程度でしょうか。

ケトルの容器の底に与えられる熱負荷は165.5[kW/m2]であったため、熱負荷の限界値である限界熱流束の1/10程度であるということがわかります。

十分余裕を持った安全設計であることがわかりますね!

電気ケトルによる沸騰所要時間の算出

ここまでで、電気ケトルの熱学的な安全性は確認できました。

それでは、この1300Wという熱出力で、水を沸騰させるまでにどの程度の時間がかかるのでしょうか?

ちょっと大きめのマグカップを想定して、水量は0.3L(=0.3kg)とします。

缶ジュースよりもちょっとだけ少ないぐらいの分量ですね。

さて、沸騰前の水の温度を20℃とし、比熱を4.2[kJ/kgK]とすると、水が100℃になるまでの時間は以下の式で表されます。

沸騰までの時間t[秒]=水の重量[kg]×沸騰前後の温度差[℃]×比熱[kJ/kgK]÷熱出力[kW]

=0.3[kg]×(100-20)[℃]×4.2[kJ/kgK]÷1.3[kW]

77.5秒

マグカップ大の水量が、わずか一分ちょっとで沸騰するということがわかりました!

熱力学的限界の考察:限界熱流束による沸騰所要時間

ここまでくると、最短沸騰所要時間が知りたくなってくるのではないでしょうか?

簡単に計算してみましょう!

ここで利用する熱負荷は、前述した限界熱流束時の値です。

家庭用のコンセントから限界熱流束を得るにはブレーカーが落ちてしまいますが、この際そんな話は無視します。

我々が知りたいのはあくまで物理的な限界値です!

条件を合わせないと意味がないので、上の計算と同様、電気ケトルの容器は底部が直径10cmの円とし、300㏄の水としましょう。

すると、上で使った式のうち、熱出力の部分だけを限界熱流束での値に変えればよいということになります。

限界熱流束は上の計算での熱流束の約10倍の値でしたから、10倍の熱出力となります。

沸騰までの時間t[秒]=水の重量[kg]×沸騰前後の温度差[℃]×比熱[kJ/kgK]÷限界熱流束での熱出力[kW]

=0.3kg×(100-20)[℃]×4.2[kJ/kgK]÷13[kW]

7.75秒

10秒切ったよ!ウサイン・ボルトが100m走り切る前にコーヒー淹れられるよ!!

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まとめ

電気ケトルの熱力学、なかなか奥が深いものがありましたね。

お持ちでない方は、これを機に電気ケトルを手に入れ、その科学技術の妙に思いを馳せるのも一興かもしれませんよ!

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