電信柱を地下に埋めれば台風等の災害に強くなる?配電地中化(無電柱化)のメリットとデメリット

電信柱を地下に埋めれば台風等の災害に強くなる?配電地中化(無電柱化)のメリットとデメリット

昨今の台風や大雨による土砂災害等で、停電をはじめとした電力周りのトラブルが相次いでいます。

そして台風が去った後も、塩害により電柱から火花が発生し、
火災に至るという事象がありましたね。

これについて、電柱を地中に埋めれば解決するという意見がありますが、
実際はどうなのでしょうか?

本記事では、地中配電化のメリット、デメリットや実現性を考えていきます。




無電柱化!電柱を地面に埋める?

電柱を地面に埋める。本当にそんなことが可能なのでしょうか?

技術としては、可能です。
海外の多くの国では、電線の地中化(無電柱化)が進められています。
例えば、ロンドンやパリ、香港では100%無電柱化されており、電柱が無い世界が実現しています。

実は日本でも、一部地域では既に無電柱化の計画は進められています。

しかしながら、政令指定都市においても無電柱化率が5%を超えているのは、
東京23区、名古屋市、大阪市といった日本最大級の大都市のみです。

そして、東京ですら無電柱化率は8%程度です。

では何故中々進んでいないのか?
そもそもメリットとデメリットはどんなものがあるのか?

次節からみていきましょう。

無電柱化のメリット

まずは、メリットです。

塩害によるショートの防止

塩害により電柱から火花が発生する事象は、
2018年の台風24号通過後に各所で多発し、ニュースでも度々取り上げられていました。

塩害による火花発生は、台風や強風により、碍子(がいし)という電柱の絶縁体に潮風が吹き付けられ、
それが碍子のちょっとした傷等に入り込み固着することでショートするという仕組みです。

電線が地中にあれば、そもそも潮風が吹き当てられることはないため、塩害は防げますね。

参考:碍子の図(赤丸箇所)

台風時に停電しにくい

台風時には、その強風に起因する設備の損傷や、潮風の塩分付着による碍子機能喪失により、
停電が発生します。

潮風・碍子というキーワードは先述の台風後の塩害にも出てきたワードですが、
同様にショートするほか、地面に電気が逃げてしまう現象が起こります。

これもやはり、地面に電線があれば、飛来物も潮風も当たらないため、
電柱単位の停電は発生しなくなるでしょう。

地震や土砂災害に強い

地下鉄が地震に強い、というのは耳にしたことがあるかと思います。
その根拠を示します。

以下参考図は、1999年の核燃料サイクル開発機構による地震動に関する研究結果です。


参考図:地上/地下の地震の揺れの強さ (核燃料サイクル開発機構,1999)

標高865mの地上と、その地下約600mの地下までの揺れの強さを測定しています。

その結果、地上の測定点における地震の揺れの強さは、
地下の一番下の測定点よりも2~4倍大きいものとなっています。

地上の建造物であれば、さらに大きな揺れになることが考えられます。

従い、地下に配電すれば、地震による機器損傷リスクは下がるものと考えられます。
また、単純に地下であるため、土砂災害等に強くなりますね。

ただし、排水機構がしっかりしていないと水漬けの危険性は伴いますが・・・。

景観が良くなる

無電柱化の目的の1つとして、電柱によって損なわれている景観を取り戻すというのがあります。

東京電力の施工例をみてみましょう。


図 街路灯に供給設備(変圧器)を設置した狭い道路での地中化整備例
参照:東京電力ホールディングス「配電について」

 

大分さっぱりしています。
ここまでくると、街燈も取り払いたくなっちゃいますね。

建物に直接設置するとか・・・色々と無理でしょうけど。

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無電柱化のデメリット

無電柱化にはメリットがてんこ盛りなのがわかりました。
それでは、デメリットはどうでしょうか。

莫大な工費がかかる

現在、国都交通省が主体の日本の無電柱化計画における課題の1つとして、
低コスト手法の検討」が挙げられています。

電柱を取り払って、新たに巨大な仕組みを築くわけですから、
それはもう莫大な費用がかかるのは言うまでもありません。

その額は国土交通省によれば、H29.1段階の技術では、

・土木工事費:1kmあたり約3.5億円
・電気・通信設備工事費:1kmあたり約1.8億円

かかるとのこと。

つまり、1kmあたり5.3億円もかかるのです。

1kmあたりでこの額。仮に日本全体に広げたらどうなるのでしょうか?

まず、電柱の本数を探してみましょう。
これも国土交通省のホームページにありました。


図 電柱本数の推移
参照:国土交通省 電柱本数の推移

なんということでしょう!
無電柱化を進める計画がありつつも、年間7万本も電柱が増え続けています!

都市開発等のため、急造され続けているのでしょうね。

電柱の総本数はH28で3,578万本ですので、H30現在では3,592万本と推測できます。
電力2:通信1といった感じの割合です。

一方で、世田谷区において1kmあたりの電柱本数は関東管区行政評価局によれば、50.1本です。
山間部はもっと少ないでしょうが、「最低いくら」を明らかにするため、
これを日本に広げたとすると・・・

3,592万本/50.1本 × 5.3億円 = 約418兆円!!

また、同資料では東京都内の電柱本数は約95万本とのことですので、
東京都内だけで考えてみると、

95万本/50.1本 × 5.3億円 = 約10兆円!!

どちらにせよ桁が違いますね。
これを電力会社、通信会社、国で負担するとなると、そう簡単には行かないでしょう。

そりゃ、低コスト化に躍起になるわけですよ。
技術革新に期待せざるを得ません。

停電等障害時の復旧速度低下

もう1つのデメリットは、停電復旧速度の低下が挙げられます。

電柱のトラブルによる停電時は、少しずつ原因がある区画を絞っていきますが、
最後は電力会社の社員が絞られた区画の中の電柱(電線)を見回りし、トラブル箇所を特定します。

最後はマンパワーなのです。

地下でも動員数自体はあまり変わらないかもしれませんが、
地上の場合、通報によりトラブル箇所が明らかになることも少なからずあります

人口の多い都市部程この割合は上がるでしょう。

そのため地下の場合、発見速度が遅くなります。

また、設備の補修も修理機器搬入等の観点で地上の方がやりやすいことでしょう。

停電は起こりにくくなりますが、一度停電してしまうと復旧速度は遅くなるということですね。

地盤が弱い地域では崩壊リスクあり

先程、無電柱化のメリットとして土砂災害や地震に強いことを挙げました。
しかし、これは強固な地盤であることが前提です。

湾岸部等の埋め立て地等の地盤が弱い地域は、
地震による液状化現象等により地下も崩壊する可能性があります。

そうなってくると悲惨ですね。
浸水も重畳すればもう早期の復旧は絶望的でしょう。

地盤が弱いところは、地上電柱の方がメリットが大きいかもしれません。

災害への現実的な対策

多大なメリットはあれど、
莫大なコストがかかる等のデメリットも大きいことがわかりました。

結局のところ、災害対策として何が有力なのでしょうか?
少し考えてみましょう。

無電柱化を進めるなら・・・

やはり現状のコストで、全ての電柱を地中化するのは非現実的ですね。

一部の重要地域に絞って地中化を進め、その中で技術を磨くとともに、
低コスト化を進めていくのがベストでしょう。

つまり、今の計画通りということですね(すみません)。

塩害対策に絞ると・・・

話題となった塩害だけに対策を絞ると、無理に地中化する必要はありません。

・塩害を受けない素材開発
・各電柱に碍子洗浄設備設置
・防風設備等の防護機能設置

等々考えられます。

しかし、国内の電柱の数を思い出すと、全国で約3500万本、東京都だけでも約95万本。

塩害の影響を受ける箇所(海岸から〇〇kmとか)を絞れば結構減るでしょうが、
それでもコストは凄いことになりそうですね。

・・・短期で根本的に解決するのは難しそうですね。

私たちが今こうしている間にも、
通信会社や電力会社、国土交通省等で日々検討がなされているはずなので、
それに期待しましょう。

各家庭でできることは、災害等による電力的なトラブルに備えることですね。