2018年9月6日深夜に発生した北海道地震(北海道胆振東部地震)。
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北海道電力の火力発電所は全て停止し、
北海道は歴史上初めてブラックアウト(全域停電)となりました。
このブラックアウトは本当に防げなかったのでしょうか?
今回は北海道地震から得られた教訓から、
・どうすればブラックアウトは防げたか
・各家庭でできる停電対策
・今後、国・電力業界はどう動くか(個人的見解)
を解説します。
北海道地震の電力的影響-事象の解説
苫東厚真火力発電所の停止
深夜3時8分頃に地震が発生し、間もなく苫東厚真火力発電所(合計3基)が停止しました。
直接的な停止原因は9/10現在明確にされていませんが、
・燃料の供給を停止する機能(供給弁の閉鎖)
・タービンの振動が大きくなったことによるタービン自動停止
・運転員判断による手動での停止
【事故原因】
・1,2号は蒸気漏洩、3号はタービン火災による自動停止
等が考えられます。最終的なブラックアウトへの起点はこのうちのどれかでしょう。
火力発電所には、一般的に「地震検知」によるインターロック(自動停止機能)はありません。
一方、原子力発電所の場合は、「地震加速度大(120gal)」というインターロックにより停止します。
苫東厚真火力発電所の出力は3号の合計で165万kW。
北海道電力の発表によると、当日の全道のピーク需要は380万kWであったため、全道の半分近くを賄うキー発電所でした。
先に述べたとおり、地震により蒸気漏洩やタービン火災等が発生しているため、簡単に再起動はできません。
参考:火力発電所の概要
原理は、下記の図のように、
・ボイラーで水を沸騰させて蒸気を作る
・発生した蒸気でタービンを回す
・タービンで生じた機械的エネルギーを発電機で電気的エネルギーに変換する
・タービンで仕事をした蒸気を復水器で水に戻す
というシンプルなものです。
図 火力発電の原理(出典:電気事業連合会)
他の火力発電所の連鎖停止
苫東厚真火力発電所の停止の影響は、全道の他の火力発電所に波及していきます。
苫東厚真火力発電所と同様の原因で停止した発電所もあるかもしれませんが、
多くは全道の半分の出力を担う巨大発電所が停止したことによるものでしょう。
9/10現在の報道では、概ね「周波数の乱れによる連鎖停止」と言われています。
この意味を説明します。
北海道の場合、発電機の周波数は50Hzです。
発電所内の機器をはじめ、家電製品等もこの周波数にあわせて設計されています。
(東日本と西日本で周波数は異なります。詳しくは東日本と西日本で発電機周波数が違うのはなぜ?ー戦前の日本から引き継がれた不合理ーを参照ください。)
従って、周波数が大きく変化すると、機器の故障や事故の原因となるため、
発電機には安全機能として、周波数が乱れた場合に停止する仕組みが備えられています。
今回、苫東厚真発電所という巨大な発電所が停止しましたが、その段階で電力需要は変わりません。
つまり、残された発電所で能力不足にも関わらず、突然2倍以上の供給量を賄おうという状態になります。
この状態を過負荷といい、これにより周波数が大幅に低下し、連鎖的に他の火力発電所も停止していったと考えられます。
北海道のブラックアウト
火力発電所が全停し、北海道は発電能力を失いましたが、
このような事態に陥っても、電力会社は互いに電力を融通できる送電網を有しています。
北海道の場合、本州から電気を融通できるよう、「北本連系線」が配備されていました。
そこから電力を得ることを期待されましたが、北本連系線は直流で送電するため、
使用にするには交流に変換する必要があり、また交流変換器の起動も電力を要することから、
停電状態で使用できませんでした。
なお、送電できたとしても送電容量は60万kW(現在増設中)であり、需要の全てを賄えません。
最終的に北海道への電力供給はすべて遮断され、北海道はブラックアウト(全域停電)となりました。
復旧への道筋
ブラックアウトからの復旧については、壊れずに停まった火力発電所を再起動すればいいんじゃないの?と思うかもしれませんが、火力発電所の再起動にも電気が必要です。
そのため、北海道電力では、停止させていた水力発電所を使って発電し、そこから連鎖的に火力発電所を復旧しています。
しかしながら、苫東厚真発電所は先述のとおり設備の損傷があることから、復旧には一週間以上かかる見通しと報告されています。全道の電力復旧には時間を要しそうです。
なお、停電が続く地域の重要設備(病院等)への給電は、各電力会社の電源車等の応援で賄う見込みとのことです。
1日でも早い復旧に期待します。
火力発電所が全停してもブラックアウトは回避できた
ここからは、今後の対策等を見据えた「たられば」の話をしていきます。
著者は以下どちらかにより、ブラックアウトは回避できたと考えます。
- 泊原子力発電所の再稼働
- 北本連系線の改良
それぞれ説明していきます。
泊原子力発電所が動いていたら?
北海道で最大の発電能力を誇る発電所は何処かご存知でしょうか。
そう、泊原子力発電所です。
泊原子力発電所は、合計3基で207万kWの発電能力を有します。
苫東厚真発電所の165万kWを凌ぐ容量です。
もし泊原子力発電所が動いていれば、苫東厚真発電所の容量を補って余りあるため、
ブラックアウトは完全に回避できたと考えます。
また、原子力発電は、動いていればベースロード電源として扱われるため、
時間帯による出力変動もなく、最大出力を安定して維持できます。
図 電力需要の負荷平準化(出典:一般財団法人 日本原子力文化財団)
従い、停止した火力発電所のうち、再起動可能なものに電力を供給し、速やかに再起動させることが可能です。
そもそも、今回のブラックアウトの起因は苫東厚真発電所の停止による需給バランスの乱れですので、
泊原子力発電所が動いていれば、火力発電所の連鎖停止も起こらなかったかもしれません。
そうはいっても、地震で泊原子力発電所だってダメになってたんじゃない?
下手したら福島事故の再来では?と思う方は多いことでしょう。
絶対に、ということはできませんが、以下の状況から、
泊原子力発電所は地震後も安定運転を継続可能だったと考えられます。
一般的に、原子力発電所は火力発電所より強固な設計になっています。
理由は、建屋を強固で揺れも小さい岩盤に直接支持させているためです。
原子力発電所の構造物は、「耐震クラス」という耐震基準が存在し、
重要なものは想定される最大地震に対し十分な余裕を持たせた設計になっています。
そして極めつけはこれです。
北海道地震は最大震度7という強烈な地震でしたが、泊地方の震度は2でした。
これは「よくある」レベルの地震ですね。
上記2点のような強固さに対し、震度2の地震では、びくともしないでしょうね。
当然、「地震加速度大」信号による自動停止もないでしょう。
世間では、
「震度2程度の地震で泊原子力発電所は電源喪失し、非常用電源を使わざるを得なくなった」
というあたかも泊原子力発電所が脆弱かのような言い回しがされているようです。
単純に、泊原子力発電所は元々停止しており、外部電源により燃料を冷やしていましたが、
停電の影響でそれが断たれため、非常用電源で冷やしてるというだけのお話です。
なお、私は原発については、今回は詳しく述べませんが、
「現状は必要だが、さらなる発電手法や自然エネルギーの技術革新が起これば不要となる」と考えています。
北本連系線の改良が間に合っていたら?
先に述べたように、北本連系線は容量が足りず、さらに停電時は使えませんでした。
しかしながら、北本連系線は現在改良中であり、以下のパワーアップが予定されていました。
- 容量UP:60万kW ⇒ 90万kW
- 自励式変換器の採用
容量については、ブラックアウトを想定したものではなかったため、
工事が間に合っていても大きな成果には繋がらなかったと推察します。
一方で、自励式変圧器の採用は今回の事例を踏まえると、大きく寄与したと思われます。
自励式変圧器とは、交流電源を運転可能な変圧器です。
今回、北本連系線が使えなかった理由は変圧器が起動できなかったためですので、
工事が間に合っていれば60万、あるいは90万kW供給することができたことになります。
その場合、まずブラックアウトは起こらず、60万kW分の電気は供給され、
一度全停となった火力発電所も、壊れていないものから速やかに再起動できます。
苫東厚真発電所の容量には満たないため、多少の計画停電等の措置は必要になったかもしれませんが、
被害は大きく抑えられたと考えられます。
なお、道内の送電網は切れてないのか?という疑問もあるかと思いますが、
現状の復旧状況を鑑みるに、そこまで致命的なダメージはないと考えます。
今回の震災には間に合わなかったものの、今後のためにも確実に工事を進めていただきたいと思います。
各家庭でできる停電対策
では、今回のブラックアウト時に、各家庭でできる対策とは何だったのでしょうか。
「電力供給」という観点で紹介します。
非常用電源(UPS)の設置
最も直感的なのは非常用電源の設置です。停電時に、代わりに電源を供給します。
ブラックアウトも狭い世界でみればただの停電ですので、このシステムに影響はありません。
性能は色々で、PCを安全にシャットダウンする程度のものから、
暮らしを便利にする機器の大部分を長時間にわたりカバーするものまであります。
昨今の災害頻度を考えると、しっかりしたものを準備しておいても損はないと思います。
我が家では、下記のサイトの非常用電源を検討中です。
家の非常用電源としても、車中泊用の電源としても使用でき、かつ静音・大容量のようです。
また、容量は上記に劣りますが、通常時、太陽光で充電しておき、停電時に電力を供給するバッテリもあります。
太陽光パネルの設置
敷居の高い話になりますが、家庭用太陽光パネルは非常に有効と考えます。
天候に左右されることや、蓄電技術がまだまだ未発達とはいえ、日常では電力自給による電気料金削減及び電力会社への売電が可能であり、災害時になれば系統が壊れない限り電力を供給し続けてくれます。
高性能な蓄電池と組み合わせれば相当強固な対策になりますね。
例えば、以下のような業者で検討できます。
・【タイナビ】太陽光発電の全国優良業者、見積比較
・太陽光見積りサイトNo.1【ソーラーパートナーズ】
太陽光発電については、是非とも関連記事を参照ください。
家庭での対策としてはこんなところでしょうか。災害対策としてどこまでお金をかけるか、というのは中々難しいところではありますが、
「保険料」として、生命保険等と比べて考えれば、高度な対策をしても安く思えるかもしれませんね。
まとめ
以上、北海道地震におけるブラックアウトに係る解説でした。
本記事の内容が頭に入っていれば、ニュース等の内容も頭に入りやすくなるのではないでしょうか。
北海道地震の復旧作業が落ち着いたら、国や電力業界では、
- 火力発電所の設備増強
- 融通を含めた送電網の強化
- 原発再稼働の加速
が進められると勝手に予想しています。
色々と述べてきましたが、結局のところ、泊原子力発電所が動いていても120ガルを超えていたら停止していましたし、北本連系線で電力融通ができていても送電網がやられていればダメでした。
今回の結果だけみれば、先述の仮定で「ブラックアウトは回避できた」と考えられるものの、事象が変われば結果も変わってくるかもしれません。
各々の手段の確実性を可能な限り上げて行き、リスクを最小限に抑えることと考えます。
これには、国や電力会社はもちろん、個人も含まれます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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