【ZECの影響】原発支援の補助制度案が創設されるとどうなる?電気料金値上げ対策は?

【ZECの影響】原発支援の補助制度案が創設されるとどうなる?電気料金値上げ対策は?

経産省は、原子力発電所を保有する電力会社への補助制度を2020年度末までに創設することを検討しているようです。

この制度は、米国ニューヨーク州のNuclear Zero Emission Credits (ZEC)をモデルにしています。
ZECとは、温室効果ガスの排出抑制を目的に既設原発の早期廃炉を防止するため、原発の発電料金の一部を消費者に負担(電気料金に上乗せ)させるというものです。

参考:https://www.asahi.com/articles/ASM3D3S9TM3DULFA00N.html

詳細は朝日新聞の電子版サービス「朝日新聞デジタル」で。

本記事では、本補助制度のモデルの概要や、実際に実現した場合の影響がどの程度になるかの試算を紹介します。

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経産省による原発支援の補助制度案

2019/3/23の朝日新聞デジタルのトップニュースにて、経産省が原子力発電所を保有する電力会社への補助制度を2020年度末までに創設する旨を検討しているとの記事がリリースされました。

参考:https://www.asahi.com/articles/ASM3D3S9TM3DULFA00N.html

詳細は朝日新聞の電子版サービス「朝日新聞デジタル」で。

この記事によれば、経産省は日本でも米国ニューヨーク州のNuclear Zero Emission Credits (ZEC)をモデルとした制度の導入を目指しており、制度が導入されれば、原発発電分のコストの一部を需要家が負担することになります。

しかしながら、3/24時点で経産省等の根拠資料はネット上では見当たらず、情報源は不明ですので、今後の動向に注目したいところです。

次節以降では、本制度が導入されるとどうなるか考えていきましょう。

ゼロエミッション・クレジット(ZEC)

ゼロエミッション・クレジット(Nuclear Zero Emission Credits :ZEC)は、先述のとおり、温室効果ガスの排出抑制のため、既設の原発を維持することを補助するものです。

ここでは、ZECが制定された背景や実際の制度概要を紹介します。

ZEC制定の背景

ニューヨーク州では、2015年に「2015 New York State Energy Plan」を制定し、2030年までに以下の3点を達成することを目標に掲げました。

  • 温室効果ガスの排出量を40%低減させる(1990年比)
  • 再生可能エネルギーの発電比率を50%にする
  • 建物のエネルギー消費を23%減少させる(2012年比)
  • 上記の通り、温室効果ガスの排出量を2030年までに40%低減することに加え、2050年までには80%低減することを目指しています。
    そのための手段として、再生可能エネルギーの発電比率を50%まで引き上げること及びエネルギー効率を向上させることを検討しています。

    特に、エネルギー効率の向上(エネルギー消費の削減)は温室効果ガスの排出抑制に最も費用対効果が高いと考えられています。
    2012年の水準からエネルギー消費を23%低減した場合、600兆Btu(英国熱量単位)のエネルギー低減となります。
    600兆Btuというと想像できない数値ですが、これはニューヨーク州のすべての家庭が半年間に使用するエネルギーより多い数値です。

    (出典:Reforming the Energy Vision

    この目標を達成するにあたり、再生可能エネルギーの普及を推進するとはいえ、現状では温室効果ガスの排出低減目標を達成するには原子力発電所の力が必要でした。

    一方で、ニューヨーク州に設置されている6基の原発は、天然ガスの低コスト化や設備の老朽化により経済性が低下した影響で、廃炉が決まっていたり、早期の廃炉が検討されている状況にありました。

    そこで、既設の原子力発電所の維持を補助するため、「ZEC」が制定されました。

    以上が、ZEC制定に至る概ねの背景です。

    参考文献: 
    平成29 年度原子力の利用状況等に関する調査(系統制約・競争環境下における原子力利用に係る調査・研究)報告書, 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所, 平成30年2月.

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    ZECの概要

    では、ZECとはどのような制度なのでしょうか。
    本記事でも何度か述べたとおり、ZECとは温室効果ガスの排出抑制のため、原子力発電所の維持を補助するため、原発による発電コストの一部を需要家が負担するというものです。

    具体的な条件はNEDOの報告書によれば、以下のとおりです。

    <ZEC制度の概要>
    •ニューヨーク州公益事業委員会(PSC)が、①当該発電所の収益源がゼロエミッションという価値を持続するために十分であるかどうか、②当該発電所の州内クリーンエネルギー・ミックスに対する歴史的貢献度、③公共料金納付者に対する影響、等を判断して、発電所ごとに公的必要性(public necessity)を決定。

  • 公的必要性を満たす適格発電所6は、2017年4月1日から 2029年3月31日までの12年間、ZECを受け取ることが可能。
  • ZEC 価格は、2年単位で定められ、最初の2年間(2017年4月1日から2019年3月31日)の価格は、$17.48/MWh。2019年4月1日については、2年ごとに見直して決定。
  • ZEC 年間買取量は、ニューヨーク州北部にある原子力発電所の年間発電量に基づき、上限を27,618,000 MWh と設定。
  • NYSERDAがZECを買い取り、州内の小売り電気事業者が、NYSERDAとの契約によってZECを購入。
  • 出典:NEDO ワシントン事務所報告書(ニューヨーク州のエネルギー政策について,2017年10月)

    注目すべきところは、$17.48/MWhという買取価格でしょうか。
    1ドル≒110円とすると、約¥1.9/kWhとなります。

    次節では、仮にこの買取価格が日本に適用された場合、どの程度のインパクトがあるのか試算してみましょう。

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    ZECが導入された場合の電力会社の収益変化

    ZECが日本で買取価格がそのまま導入される可能性はわかりませんが、仮に実現した場合、どの程度影響があるのかみてみましょう。

    現在の原発稼働状況

    まず、現在どの程度原発が動いているのか確認しましょう。

    出典:原子力安全推進協会

    九州電力と関西電力がツートップで4基ずつ稼働しています。
    加えて、関西電力は高浜1,2号と美浜3号が審査に合格済みのため、稼働も時間の問題かと思われます。

    九州電力と関西電力の原発発電量

    現在、最も原発の発電量が多いのは九州電力で、平成29年度の原発発電量は289億kWhです。
    (参考:九州電力 平成29年度決算

    一方、関西電力は、平成29年度の原発発電量は137.4億kWhと、九州電力の半分程度となっています。
    (参考:数字で見る関西電力

    これは、原子力発電所の安全審査の合格時期や訴訟による発電所ストップの影響です。

    関電の場合、先述のとおり、合格済みで未稼働の原発が3基あるため、近い将来の予想としてこれらと稼働率が少なかった号機を3.11前の発電量として加算すると、約470億kWhとなります(あくまで仮定です)。

    ZECの導入を仮定した場合に発生する金額

    では、原発TOP2社の発電量にZECを適用するとどうなるでしょうか。

    ここで、ZECの買取価格はニューヨーク州の制度と同様と仮定して1.9円/kWhとします。
    ここからは、あくまで仮定の話であり、今ある情報を組み合わせただけのシミュレーションとご理解ください。

    まず、九州電力の場合、289億kWh × 1.9円/kWh ≒ 550億円
    次に、関西電力の場合、470億kWh × 1.9円/kWh ≒ 890億円

    となります。

    なかなかの金額ですね。コインチェック事件の被害額を軽く超えています。

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    電力会社の利益は?

    さて、前の節ではZECが適用されると、なかなかの金額が発生する可能性が示唆されました。

    では、これが全て電力会社の利益となるのでしょうか。

    それは正直なところわかりません。

    電力会社にとってプラスになることは間違いありませんが、ZEC本来の目的を鑑みると、老朽化した設備の補修や改造等に多く充てられることが予想されるため、利益として目に見えるかわかりませんし、別の形で電力会社が私たちにリターンをくれるかもしれません。

    実際に導入されてみないと何とも言えないのが現状です。

    私たちができる電気料金値上げ対策

    ZECが導入されると、少なくとも私たちの電気料金が値上げされることになります。
    そうなったときの対策として何ができるでしょうか?

    新電力に乗り換える

    現在、大手電力会社と契約している場合、新電力に乗り換えてベースとなる電気料金を下げることで、値上げを緩和できます。
    新電力自体もZECによる負担があるため、電気料金が上がりますが、大手電力と新電力の価格差である程度吸収できることでしょう。

    例えば、月々1000kWhを使用する場合、月1kWhあたり1.9円値上げとなった場合、年間で1900円×12ヶ月=22,800円の負担増になりますが、大手電力から楽天エナジーに乗り換えた場合、実質年間16,000円程度安くなるため、差額の6,800円+新電力の値上げ分で済みます

    実際にZECが導入された場合に料金体系がどうなるかはわかりませんが、早い段階で新電力に乗り換えておけば、最終的な損失額は減少します。

    楽天エナジーを検討する

    電力株を購入する

    もう1つ考えられるのは、電力株の購入です。

    ZECが導入されれば、電力会社にとってはプラスになりますので、株価の上昇が見込めます。
    当然、電気料金値上げ分に見合った株価上昇があるかは誰にもわかりませんが、可能性は高いでしょう。

    電力株(9500番台)は3.11以前は安定株として人気がありましたが、3.11以降は低迷しています。
    現在も当時より安い価格で購入可能ですが、各社配当利回りが当時に戻りつつあります。

    例えば、3/19の終値では、関西電力は1株1699円で配当2.94%、九州電力は1337円で配当2.24%と、中々のコストパフォーマンスです。

    そのため、将来も見据えた堅実な投資先として検討されてはいかがでしょうか。
    ZECを見据えるならば、原発比率の高い電力が良いでしょう。

    なお、いかなる株式でも高騰もあれば、暴落の可能性もありますので、あくまで自己責任でお願いします。

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    まとめ

    以上、経産省による原発支援の補助制度案に係るニュースと、そのモデルとなると言われているZECの概要の紹介でした。

    一見、原発を推進しているようにみえる(間違ってはいませんが)制度のため、大きな反発は免れないことでしょう。

    しかしながら、ZEC制度の本質は、低炭素化社会を目指し、再生可能(自然)エネルギーと原発を上手に使うための手段であり、原発を推進するのではなく、採算が合わなくなってきても、目的達成のために廃炉にせず維持して欲しいという考えに基づくものです。

    今後の動向をしっかり追っていきましょう。